バスを乗り間違えた話。

 
 ロータリーにバスが並んでいて、そのなかでも先の方にあるのが、いつもの場所でした。間に合ったと息を吐いていた時に、扉が閉まりました。アナウンスは耳慣れない地名を告げ、故障かと首を捻っている間に、無情にも動き出します。運転手も、周囲の乗客も、特にアナウンスに戸惑う様子はありません。
 前方を確かめれば、アナウンス通りの地名が表示されていて。
 これはもしや、バスを間違えたよう。
 今にして思えば、わかった瞬間にすぐに停車ボタンを押すべきでした。いつもなら曲がる角を直進し、知らない道に入っていくバスに揺られ、焦りばかりが募ります。降りようにも、運賃は変わらないか表示を見ても、こういう時ばかり目が霞んで文字がうまく読めません。きっとこれくらいだろう、と当たりをつけて財布を取り出しました。
 なんとか運賃を読み、次とまりますボタンを押します。幸いにして、おそらく2つ目くらいの駅でした。ほとんど通ったことのない道の見慣れぬバス停まわりは、知っている空気なのに全然知らない風景でした。大通りだし、このまま反対にいけば、いつもの曲がり角にたどり着くだろうと歩き出しました。
 ところが、カーブを曲がってもまだその曲がり角は見えません。更なるカーブも見え、焦っているうちに予想以上に遠くまで運ばれていたようでした。

 車がいなくなることはなく、されどどこか休む場所があるわけでもない道をひたすら歩いているうちに、見知った道へ出て、そこからは歩き通しました。
 風と、空を飛ぶ白鷺と、ガードレールの隙間にできた蜘蛛の巣と。
 知ってる空気と慣れない場所は、ちぐはぐで、思いがけず密かな非日常感を味わうこととなりました。


 それでは、また🌿



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明日葉そら

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